【Reina's eye ケース51:拍手の意味】
引越し当日の朝。
自宅の鍵をお兄ちゃんに返すために立ち寄った病院の屋上。
そこで康大クンと一緒に生活を始め、ゆくゆくは結婚する予定の私を
彼のところに行かせるわけにはいかないと口にしたお兄ちゃん。
その理由を尋ね、それは間違っていると訴える康大クン。
緊張感が漂う中、向き合うふたりの間に割って入ってきたのは
ゆっくりとしたテンポで手を叩く音だった。
「そうこなくっちゃね、ナオフミくん♪」
その音を奏でているのは、お兄ちゃんを見てニヤリと笑みを浮かべた白衣姿の福本さん。
そして、その隣には
「なんとか間に合ったわ。福本さん、あと1時間早く連絡くれればもう一便早く帰国できたのに・・」
アメリカへ出向中であるはずの真里がグレーのパンツスーツにアイボリーカラーのロングコートを羽織り腕組みをしたまま立っていた。
「でも、真里ちゃん・・・私達、必要なかったかもね。ナオフミくん、かなり決意が固そうだし~。」
今度は真里のほうを向いて、再びニヤリと意味深な笑みを浮かべた福本さん。
『福本さんと真里まで・・・真里は今、ニューヨークにいるはずじゃ・・』
相変わらず何がなんだかわからない私。
「緊急コール貰ったのよ。お医者さんみたいにね・・カッコいいでしょ?国際緊急コールよ♪・・・会社はサボリ。たまにはいいよねサボリってやつも。」
真里は腕組みをしたまま豪快に笑う。
「でもね、そこにいる男のせいでサボるハメになるのはシャクなんだけどね・・だから康大はやめとけってあんなに言ったでしょ、伶菜。」
どういうコト?
なんか今の言い方だと、康大クンが悪いような、そんな風に聞こえるけど
「ハイハイ、そんな顔しないの!もうすぐその意味がわかるわよ・・・彼女達が現れたらね・・・」
彼女達?
カツッ・・・カツッ・・・・・・・・カッッ
聞こえてきたのは屋上の出入り口付近から聞こえてきたのはハイヒールと床が擦れるような音。
そして、
「痛いっ!!!!放して!」
悲鳴混じりの女性の声も。
その声は私の胸にじりじり痛む感覚を想い起こさせる人物のもの。
カツッ、カツッ・・・・カッツ・・・・・カツカツ
どんどん近付いてくる不規則なリズムを刻む足音。
「放して下さい、奥野先輩!」
その声がするほうに振り返ると、そこには、白衣姿でヒールのないサンダルを履いた産科の奥野先生。
そして、その彼女に強く手を引っ張られているのは、白衣姿で黒いハイヒールを履いている女性。
その女性は
私に “アナタは日詠クンのお荷物なのよ” とハッキリと言った
あの女医の三宅さん
・・・・三宅教授の娘さん。