俺の想いを耳にしたせいか困惑気味だった佐橋さんの視線が明らかに鋭く変化した。
当然の反応
けれども、その瞳の奥をじっと覗きこんでいるうちに、なぜか違和感というものを感じる
保険の営業の仕事をしている時の彼の爽やかなイメージからは想像がつかない冷たい感じが漂う
仕事上とプライベート上で人柄にズレがあるのはよくあること
俺だってその辺は怪しい人間だ
でも、なぜだかわからないけれど、ズレという言葉を当て嵌めてもしっくりくる感じがしない
「お兄さん・・・このままずっと妹である伶菜さんと暮らし続けるおつもりですか?」
”妹とずっと暮らし続ける”
それは特別な事情がない限り、そうある話ではないだろう
だから、問い質されている言葉は今の状況では的外れではない内容
それなのに、やっぱり拭えない違和感
『・・・・・・ああ。』
俺自身だけの問題で伶菜を引きとめている筈だが、その違和感が拭えない限りは、引き下がることなんかできない
「お兄さん・・・僕が彼女の子供である祐希くんの・・・実の父親であることを知ってもそのお考えは変わりませんか?」
祐希にとっては実の父親である彼を差し置いて、伯父に当たる人間が家族として暮らし続けることはおかしいことではないかと言わんばかりのその問いかけ。
それが例え、世間的には間違っていない考え方だとしても・・・
彼から感じる違和感
さっき感じた冷たい感じだけじゃなくて、今は彼の爽やかな雰囲気に隠されている影のようなものをも感じる
どこか第三者的に物事を捉え、感情とかは蚊帳の外のような・・・そんな影
その影が・・・伶菜に、そして祐希に思わしくない影響を与えないか?
そんなことまで考えてしまう
仕事上の都合があったとはいえ、実の父親である彼が今まで伶菜達の前に姿を現さなかったことがどうも腑に落ちない
勿論、彼が言う通り血の繋がり
それは確かに大切なことだと思う
でも、育ての親にも愛されながら育った俺は
彼に対してそういう影を感じてしまった今
血の繋がりの有無で家族関係が変わることに対して
どうもしっくりこないという感情を抱いてしまうんだ
本当に大切なのは、伶菜そして祐希のことを
心から愛せるか
心から大切にできるか
そこなんじゃないのか?



