お兄ちゃん、どうしたんだろう?
ずっと勤務している状態だから、さすがに疲れてるのかな?

それとも昨日緊急で病院に呼び出されたみたいだから
何か良くないことでもあったのかな?

大丈夫・・・?
こんなに無愛想という単語が当てはまるお兄ちゃんは珍しいから心配になる



『お兄ちゃん、大丈夫?』


私のその問いかけに振り向こうとしない彼はなぜか唇をギュッと噛む。



やっぱりいつもと何かが違う
何か考えてはいるみたいだけど
何かがおかしい



『お兄ちゃん、マンションの鍵・・・返しに』

「佐橋さん、俺・・・・」


私は彼のマンションの鍵を渡そうとキーホルダーごと右手のひらに載せてお兄ちゃんの胸元に差し出した。
けれども、彼は私のその手を押し退けながら康大クンに声をかけた。


お兄ちゃんのその表情。
笑顔がないどころか、何か思い詰めたような気配まで感じ取れる。
逆に声をかけられる形となった康大クンは目を見開きながらお兄ちゃんを見つめている。



お兄ちゃん
何言おうとしている・・・の?




『お兄ちゃ』

「俺は・・・キミの・・・」


またまた不意に重なる私と彼の声。

康大クンは彼のほうをじっと見つめたままで
声をかけた彼も康大クンのほうを向いたまま。



そんな顔して
何・・・言うの?


お兄ちゃんは今
いったい
何を想ってるの・・・?





「キミのところに・・・彼女を・・・」


「・・・・・・・・」






「伶菜を行かせてやることはできない・・・」






カシャン・・・・・



私の右手からゆっくりと滑り落ちたボトルシップのキーホルダーの音。
お兄ちゃんのその一言によって会話が止まってしまったこの屋上にその音が響き渡った。