病院に到着した私達はまず産科外来の受付へ向かう。
そこでお兄ちゃんが外来診察をしているか聴いてみたけれど、今日は外来担当ではないことだけを教えて貰えただけだった。


次に向かったのは産科病棟。
昼間は看護師長である福本さんも勤務していると思い、彼女にお兄ちゃんの居場所を聴いてみようと思ってそこに立ち寄る。
福本さんも昼休憩に入っていたらしく、病棟の事務担当の人にお兄ちゃんの居場所を確認したところ、お兄ちゃんも昼休憩に入っていると教えてくれた。

先に康大クンのマンションに向かっていた引越し屋さんを待たせるワケにはいかないコトもあり、康大クンと私、そして私に抱っこされた祐希は急いでお兄ちゃんがいると思われる病院のあの屋上に向かった。




ガチャッ、、ギィィィ





相変わらずドアの蝶番は錆びていて、ドアを動かすと鈍い音が響く。
その瞬間、冷たい風が腫れたままの私の(まぶた)をかすめ、思わず目を閉じた。

そして、目を開けた瞬間

「パー♪」

前方にあるベンチには座って空を眺めている白衣の男性の姿があり、その姿を確認したらしい祐希が抱っこしている私の耳元で嬉しそうな声を上げた。

それでもその人は祐希の声に反応することなく、空を眺めたままだった。


『おにい・・・』


またストレスとかで難聴になってしまったのかもしれないと思った私。
心配な気持ちを追い払うようにその白衣の男性に声をかけようとした瞬間、隣にいた康大クンが足早にその人に近付く。
康大クンのその行動によって、その白衣の男性はお兄ちゃんだと確信した私も慌てながら彼の後を追った。


「日詠先生、いえ、お兄さん・・・おはようございます。」

その人が座っているベンチの前方に回りこみ、爽やかな挨拶をした康大クン。


康大クンの声にようやく反応し、私達の方を向いて軽く会釈したその人。
私も急いで 康大クンの隣に並んでその人に目をやったけれど、
その人・・・お兄ちゃんの表情に笑顔というモノはなかった。