伶菜も俺のことを大切にし過ぎるって
結婚を決めた今でも彼女は
俺のことを想っているということなのか?
「どちらかが変わらないと、その状況は変わらないのよ。」
どちらかが変わる
結婚しようとしている伶菜
それを見守る俺
『・・・どちらかが変わる・・・』
それは果たして本当に正解なんだろうか?
「スキ・・・なんでしょ?伶菜ちゃんのこと・・・」
伶菜が選んだ未来なのに
自分の想いに正直になって、俺が変わろうとすることが
本当に正解なんだろうか?
「だったら、色々難しく考えたりしないで、自分の手で幸せにしてあげればいいじゃない・・・他力本願なんかじゃなく、あなたの手で彼女を・・・」
兄という立場の俺が変わろうとすることが
本当に許されるのだろうか?
佐橋さんは伶菜のことを ”愛してる” と言ったのに
彼女も彼のことを ”愛してる” と言ったのに
祐希の実の父親は佐橋さんなのに
祐希の実の父親を祐希そして伶菜から奪ってしまうようなことになるのに
それらをぶち壊すようなことをすることが
本当に許されるのだろうか?
『奥野さん、俺・・・・・』
「待ってるわ・・・ずっと欲しかった宝物を手にして戻ってくるあなたを・・・・そのための時間を今、使うのよ。周りのことを気にかけすぎて手遅れにならないように・・・・」
ずっと欲しかった宝物を手に入れようとする自分の願望が
果たして本当に許されるのだろうか?
「日詠クンらしくいられる道を選んでも、バチは当たらない。きっと初めての我儘だろうしね・・・」
飲み干した缶コーヒーをゴミ箱に放り投げ、ニヤリと笑った奥野さんは、俺に背を向け、じゃあねと手をひらひらさせながらドクタールームから出て行ってしまった。
背中を押してくれるような言葉を残して。