ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




本当なら、朝までゆっくり自宅で寝て、
おそらく3人では最後になる朝食を取り
引越し準備の手伝いをするはずだった


けれども、それどころではなくなってしまった
深夜3時にぐっすり眠っているかもしれない伶菜を起こしたくない
今日から新しい環境に向かう彼女

だから今ぐらいはゆっくりと眠らせてやりたい


『急がなきゃな。』


そう思った俺は、今から出勤することを伝えるメモと今朝、ここから引っ越す彼女に渡す予定だったホットミルクを作る時に使うスプーンをテーブルに置いてから、車の鍵を握り、自宅を飛び出した。


ホットミルク用の小さなスプーン
本当は伶菜の目の前でそれを使ってホットミルクを作ってやることで、メイプルシロップの分量とかを教えてやりたかった


『こういう状況だから仕方ない・・・』

俺はふうっと息をつきながら、病院へ向かう車を走らせた。



「・・・すみません。私・・・」

『謝らなくていい。セルシン投与してからの状態は?』

子癇(しかん)発作、とりあえずおさまっています。胎児も問題なさそうです。」

『そうか。よかったな。』



病院に到着してすぐ。
産婦人科ドクタールームのソファーに鞄を置いた瞬間、美咲が俺に駆け寄ってきて今にも泣き出しそうな顔で報告をしてくれた。



『再発作させたくないから、マグネゾールの予防投与しておこう。』

「わかりました。あの・・・」

『気になることがあるのか?』

「いえ・・・お休みのところ呼び出す形になって申し訳ないと思いまして。」

『奥野さんもオペ中で対応できなかったみたいだし、問題ないよ。』


真面目すぎる傾向がある美咲。
俺がいくら問題ないと言っても、申し訳なさそうな顔は変わらない。


『でも、発作はおさまったとはいえ、安心するのはまだ早いぞ。再発作の兆候がないか注意しておかないとな。』

「は、はい!!!!!バイタルとNSTの頻回の確認を続けます。」

『大変だけど、頑張れよ。』

「早速、様子を診てきます。」


俺に気を遣っている暇があったら、患者さんへの注意を逸らさないで欲しい

そう思いながら、ドクタールームのロッカーのドアポケットに置いてあったミントタブレットを口に放り込み、子癇(しかん)発作を起こした患者さんのところへ向かった。