『・・・・はい・・・んっと・・日詠です。』

「産科病棟助産師の安田です。お休みのところすみません・・・・」

『・・・・ん?・・・えっと、どうしました?』

「あの・・・申し訳ないのですが、どうしたらいいのかわからなくて・・・」

『・・・・今日の夜勤って・・・確か・・・』

「美咲先生です。」

『・・・美咲・・・・』


俺は聞こえてきたその名前を復唱することでぼんやりしていた頭をなんとか目覚めさせた。


『何があったんですか?・・・・他のドクターは?』

「奥野先生は緊急搬送された妊婦さんの緊急手術に入ってしまっていて・・・美咲先生しか対応できる先生がいないんですが・・・」

携帯電話から聞こえる助産師安田さんの困惑した声。



『どういう状況?』

「もう少しで分娩になりそうな妊婦さんの子癇(しかん)発作です。前駆症状らしき症状がみられたので、美咲先生からマグネゾールが処方され様子を見ていたのですが発作が起きてしまって・・・美咲先生もどうしたらいいのかわからないみたいで。」


美咲は医師国家試験に合格後、2年間の初期研修(ジュニアレジデント)を終えて、今年の春からウチの産婦人科に配属されているシニアレジデント1年目の女性医師
真面目な性格で、仕事にも熱心な後輩医師だ


子癇(しかん)発作か・・・・』


その彼女が子癇(しかん)発作を発症している妊婦さんへの対応をどうしたらいいのか戸惑っている状況らしい
一緒に夜勤しているはずの奥野さんが指示できない状況ということは、奥野さんがおそらく大変な処置をしているんだろう
だから、日頃から何かあったら遠慮せずに連絡して欲しいと看護職員に伝えてある俺のところに連絡が来たわけだ



『安田さん、メモが取れるように準備してくれる?』

「はい、大丈夫です。」

『まずセルシン10mg静注・・・誤嚥しないように口腔内吸引して酸素投与。バイトブロックも利用。ルート確保も。バイタル測定は10分毎で。NST(胎児心拍モニタリング)からも目を離さないように。』

「・・・はい。」

『あと、挿管・人工呼吸器も準備。帝王切開になるかもしれないから、オペ室にも連絡しておいて下さい。』

「挿管、人工呼吸器の準備と・・・・オペ室連絡もですね?」

『そのメモを美咲に渡してから対応して下さい。僕も今からそっちに向かいます。』

「本当にすみません。お願いします。」