【Reina's eye ケース49:小さくて大切なスプーン】




康大クンが結婚の話を正式にお兄ちゃんへ申し出たあの土曜日から、1日、2日、3日とあっという間に時間が過ぎていった。

そんな中、お兄ちゃんは、今度の金曜日、休みだから引越しの準備手伝うよとだけ言ってくれただけで、お互いにその話題に触れようとすることはなかった。



「最近、祐希ってさ、ちゃんといただきますって手を合わせるんだな。いつの間に覚えたんだ?」

『お兄ちゃんがやってるのを祐希・・・よく見てるから。』

「そうなんだ。じゃあ、俺、下手なコト、できないな。」


彼と私の間では、ここ最近、動きが活発になってきた祐希の話題が大半を占めていたから。
こういう時間もとても穏やかで、心地いい。


でも、引越しの土曜日まで本当にあとちょっと
こういう大事な時間を大切に過ごしたい

私の結婚の話題にお互いが触れないのは、もしかしたらお兄ちゃんも私と同じで、そういう想いを抱いているからかもしれない


『もう金曜日なんだ・・・』


そして引越しを明日に控えていた金曜日の朝。
ベッドの上で大きく背伸びをしてから、朝食の準備をするためにキッチンに向かう。
いつもなら、玄関から運んできた新聞を置きにくるためにダイニングへやって来るはずのお兄ちゃん。
でも今日はいつまでたっても来る気配がなく、彼の寝室をノックしたが返事も聞こえて来なかった。


もう一度、ダイニングに戻ると、ダイニングテーブルの上には

【病棟に緊急で呼ばれた。行ってくる。いつ帰ってこられるかは未定だから荷物の整理、手伝えなくてゴメン   】

と殴り書きに近い文字で書き込まれたメモ用紙。
そして、お兄ちゃん特製(お母さん直伝)ホットミルクを作る時に使うあの離乳食用スプーンもそこに無造作に置かれていた。