そう心に決めたその時、


「なんで?もしかしてお兄ちゃん、やっぱり男の人がスキなの?」

『は?』

「もしかして入江さんとか?・・・ダメだよ、入江さんは・・・綾さんっていう人が結婚したのを知って、その失恋からなかなか立ち直れていないみたいなんだから・・・」


彼女は、俺が考えていた{知らぬが仏}の意味の捉え方を違う視点で捉えていたみたいだった。



俺が入江さんがスキとかどういう意味だ?
しかも、綾さんが結婚していることを知っているとか


『あのなぁ。なんでそういう発想にいくんだ?』

お前のことがスキな俺は、お前にはどう見えているんだ?


しかも、入江さんのことがカワイイとか、彼が気になるとか
ちょっとというか、かなり聞き捨てならないことを言っちゃったりしている

正直、ムカつく
こういう時に入江さんが出てくるような隙を与えてしまっている残念な自分が



『・・・お前が入江さんに惚れるわけ・・・ないよな?』

「・・・・・・」


正直、情けなく思える
あり得ないだろと思いながらも、伶菜の心の中にいるかもしれない入江さんの存在をちゃんと消しておきたいと迫る自分も


『伶菜はこれから・・・佐橋さんと結婚するんだからな。』

「・・・・・・」


正直、酷いことをしていると思う
自分の本当の想いをひた隠しながら、彼女のこれからを勝手に決め付けて念押しするような言葉をかけてしまう自分も



こうでもしないと彼女から離れられない俺の耳に聞こえてきたのは、


「そうだね・・・私、康大クンと結婚するんだから・・・入江さんに惚れる訳ないじゃん♪」


どこか乾いた声で紡がれているのに重苦しく感じずにはいられないサヨナラの足音だった。