「そんな、ワ、わたし?」

『・・・・・・・・・・』



{お前のことが好きだ}


そう口にしようとしたその時、目に入ってきたのは伶菜の拍子抜けした顔。
おまけに、”やっぱり違うよね?” と否定するような問いかけまで。


”想定外”
そんな反応をされた気がした

”恋愛対象外”
そういう反応にも感じられた


仕方がない
兄貴という立場で一緒にいられるように彼女を導いたのは
他でもない俺だから



だから、もうやめよう

『伶菜さ・・・最後まで聞けって。お前に・・・言うまでもない、そんな人だよって言おうと思ったのにな。』

彼女に {お前のことが好きだ}
そんな言葉を伝えるのは・・・



それに、その人物が誰なのかをお前がわざわざ耳にする必要はない

「へっ?言うまでもない?!・・・そんな人って?私のよく知ってる人?」



それは
よく知っている人
今、目の前にいる人



『どうだかな・・・それが誰なのかは俺の口からお前に言うことは、もうきっとないんだろうな・・・』



今のお前は
好きだと伝えてはならない人

そして多分、これから先も
好きだと伝えてはならない人


だから、それが誰なのかを
自分の口からお前に言うことは
もうきっとない



「なんで?教えてくれてもいいじゃないの?」


切ない顔をしていた彼女の眉間にクッキリとした皺が寄る。
持っている箸をグッと握っている姿からも、彼女の怒りを感じずにはいられない。


怒らせても当然だよな
彼女の質問にまともに答えていないんだから


それでも

『やだね。』

「なんで?」

『・・・いいか?知らぬが仏って言葉、あるだろ?それだ。』

まともに答えることなんかできない



そんなことをしたら、俺は彼女を手離すことができなくなる

人に気を遣いがちな彼女も
もしかしたら、俺から離れることを躊躇(ためら)うかもしれない


{知らぬが仏}


だから、彼女は俺の本当の想いを知らないまま
自分の選んだ道に進むべきだ

だから、俺は自分の本当の想いを(さら)け出すことなく
今この時を(しの)ぐんだ