ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




何も言葉が出てこなかった。

彼がぽつりぽつりと口にしたその呟きから
私が彼以外の人と結婚するというコトが自分に待ち受けている未来であるコトを
改めて理解させられたから。

そして、そんな状況の私は彼が好きなのは一体誰なのかを聴き出すことができなかった。


でも、もうこれで充分
私はようやく彼に本当に突き放された

これでいいんだ


「そうだね・・・私、康大クンと結婚するんだから・・・入江さんに惚れる訳ないじゃん♪」

私は無理矢理に口角をグイッと上方に引き上げ、軽い口調でそう言いながら笑って見せた。
ちゃんと笑わなきゃ、彼に心配をかけてしまうから。



「・・・・・・・・」

彼は何も言うことなく私をじっと見つめた後、

「・・・鍋、早く食べないと、スープが煮詰まって味が濃くなっちゃうな・・・」

そう呟きながら弱火でグラグラ煮えたままの石狩鍋をおたまでぐるぐるとかき回す。

「鍋・・・か・・・」


そしてその後のお兄ちゃんは
私の結婚のこと、彼が好きな人のことについて一切触れようとはせずに
いつもの・・・あまり口数は多くなくて余計なことも一切言わない・・・いつもの彼に戻ってしまっていた。



”これでいいんだ”


私は自分にとって
初めてのかけがえのない恋を
初めての本当の恋を

ようやく自分の手で終わらせた。