グラグラグラッ・・・
具もスープも減って煮詰まり気味の石狩鍋が大きな音を立てている。
一緒にゴハンを食べていた祐希はお腹いっぱいになったせいか一人、椅子に座ったままウトウトしていて、鍋が煮えるその音だけがダイニング内に響き渡る。
グツグツグツッ・・・
鍋の煮える音が少しだけ小さくなった。
お兄ちゃんが下を向いて黙ったままカセットコンロの火力の調整をしてくれたから。
聞こえていなかったのかな?
どうなんだろう?
もう1回、同じこと聴くのもなんとなく気がひける
『お兄ちゃん?』
だから私は彼の様子を伺うように彼に呼びかけた。
「・・・ああ、聞いてたよ。」
彼はカセットコンロから私のほうをもう一度視線を向けてくれた。
『じゃあ・・・』
そして私はもう一度彼の瞳の奥を覗き込んだ。
彼はというと、少し困ったような顔でかすかに微笑みながらおもむろに口を開いた。
「・・・・お前・・・・の・・」
お前?
今、お前って言った??
嘘?!
だって、私、お兄ちゃんの妹だよ?
そんなの・・・
『そんな、わ、ワタシ?』
「・・・・・・・・」
はあっ~・・・
私のマヌケな叫び声の後に続いたお兄ちゃんの溜息。
『やっぱり、違うよね?』
彼のその溜息からなんとなく空気を読んだ私。
「伶菜さ・・・最後まで聞けって。お前に・・・言うまでもない、そんな人だよって言おうと思ったのにな。」
『へっ?言うまでもない?!・・・そんな人って?私のよく知ってる人?』
さっぱりわかんない
そんな人って言われても、思い浮かばないよ
「どうだかな・・・それが誰なのかは俺の口からお前に言うことは、もうきっとないんだろうな・・・」
お前に言うことは、もうきっとない?
清水の舞台から飛び降りるような意気込みで思い切って聴いてみたのに・・・
『なんで?教えてくれてもいいじゃないの?』
箸を右手でグッと握って大人げなくそう言い放った私。
「やだね。」
『なんで?』
「・・・いいか?知らぬが仏って言葉、あるだろ?それだ。」
それが誰なのか教えてくれる気がサラサラないみたい
そういう態度なら、私が以前から気になっていたこと、聴いちゃう
というか、知らぬが仏って
もしかして、世間一般では ”あり得ない恋” ってモノなの?



