「・・・カレのことは、お前が言うように理解してないかもな。」
そう言いながらちょっぴり困った表情を覗かせた彼。
でもそんな彼を目の前にしても、自分で自分のことを抑えることができずどうしようもない状況の私は
『じゃあ、なんで?・・・なんで聴いてくれないの?」
みっともなく彼に向かって叫んでいた。
「・・・・・・・・」
絶句したまま私をじっと見つめるお兄ちゃん。
こんな自分、サイアク
わかっているけど、色々具体的に聴いて欲しかった
兄らしく、妹を心配している姿を見せて欲しかった
そういう彼の姿を見て
自分自身の中にくすぶっている “彼のコトが好き” という想いを
徐々にでもいいから消していきたかったから
こんなサイアクな私にも
彼はそっと笑いかけ、そしてゆっくりと口を開いた。
「だって、俺・・・お前を・・・伶菜を信じてるから。」
”お前を、伶菜を信じてるから”
たったその一言で
自分自身でも抑えきれないどうしようもない感情が
まるで潮がひいていくように、すうっと消えていったのが自分でもわかった。
戦意喪失
この人とはケンカというものにならない
それはこの人があまりにもオトナすぎるから
「最初に出逢った頃・・・・」
『・・・出逢った頃?』
「ああ。お前はさ、危なっかしくて仕方なかった・・・・メンタルも不安定だったしな・・・・でも、いつ頃からだったか・・本当に強くなった・・・きっと母親になると決意をしてからなんだろうな。」
天井を見上げながらゆっくりとそう語った彼。
そのキレイな横顔をじっと見つめるのが精一杯の私。
「お前に東京へ転院するように勧めた時も、きっと強くなったお前なら母親としてちゃんと前を向いてお腹の中の子供を守り抜ける・・そう思って、そう信じてた。でもその時の俺はお前に何ひとつしてやれなくて・・・情けなかったけどな・・」
俺はお前に何ひとつしてやれなくて情けなかったけど・・なんて
そんなコト・・・
『そんなコトない。お兄ちゃんがいてくれたから、頑張れたんだよ。』
お腹の底から搾り出すように本音を伝える私のほうをようやく見てくれた彼。



