ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋





「ぱぱ~・・・ぱぱ!!!!」

『祐希・・・・』

抱っこしている祐希が俺のことをパパと呼ぶのはもう当たり前になっている。


けれども、

『俺はママの・・・お兄ちゃんなんだぞ。』

「・・・・・・?」

『お前からしてみればどういう立場・・・なんだろうな?』

でも、これからは祐希のパパではいられなくなる
伶菜からまだ直接説明されてはいないが、おそらく血の繋がった本当の父親が現れたのだから


『俺からしてみれば、俺はお前の親父・・・なんだけどな。』


今、この瞬間。
父親がふたりいるという経験をした自分の幼い頃を想い出した。


”親父と父さん”

親父という人

彼は物心ついた時にはすぐ傍にいてくれて
俺の手を引いては、色々な物を見せてくれて、触れさせてくれて
時には真剣に叱ってくれた
愛情というものをこれでもかと注いでくれた
そんな人だった


父さんはというと、小学生だった俺を引き取ってくれた人

少し離れた場所に居て、どちらかというと寡黙な人
けれどもちゃんと見守ってくれる気配が感じられる
そんな人

親父は産婦人科医師だったが過労で死別してしまった
父さんは東京で今も心臓血管外科医として忙しい日々を送っている

そのふたりの男が俺の父親


思春期の頃は ”なんで父親という存在がふたりもいるのだろう?” なんて反発したこともあったけれど

伶菜の傍に居る今の俺がいるのは、このふたりの男が自分の父親であったおかげ・・・そう思える自分がいる


目の前にいる祐希
彼にとって俺は親父のような存在になれただろうか?

今後、伶菜が佐橋さんと結婚することによって
俺が祐希とも離れてしまっても
彼の人生の中で、俺と過ごした時間がかけがえのない時間として残ってくれるといい


正直なところ、本当はもっと彼の親父という立場で
一緒に見たい景色、夜空がまだまだいっぱいあるんだけどな・・・


『でも、お前とももうすぐ、サヨナラ・・・なんだな。』


俺は伶菜そして祐希とのサヨナラまでの ”もうすぐ” がいつになるんだろう?という落ち着かない疑問を抱えながら、抱っこしていた祐希の体を強く抱きしめ、自宅への道を歩いた。