そうじゃないだろ?と思ったのは伶菜も同じようだったようで、彼女は口をぽかんと開けたまま俺を凝視している。
こんな時に、的外れな質問をされた彼もそう思っているに違いない。
そう思っていた。
「・・ええ、よく眺めてますね。」
しかし、彼は爽やかな笑顔でそう返事をしてくれる。
質問したこちらの後悔を掻き消してくれるような、そんな空気までもたらしてくれる。
伶菜が命を絶とうとしてまで苦しんだ時期に一緒に居てやらなかった彼だが、
それはきっと、彼女の状況を知らなかっただけなのかもしれない
だから、もし、目の前の彼がその状況を知っていたのならば、彼女を蔑ろにはしないだろう
そんなことまで考えさせられるような彼の応答。
『・・・そうですか。僕が貴方にお聴きしたかったのはそれだけです。』
だったら、伶菜が彼を選ぶのなら、
兄として、彼女を信じよう
そういう愛し方も
もしかしたらあるのかもしれない
いや
俺にはもうそういう愛し方しか残されていないはずだ
『妹には両親がいないこともあって、結婚するにあたって貴方のご家族に対して色々とお手数をおかけするかとは思いますが・・・・どうぞよろしく御願い致します。』
これからの彼女をすぐ手が届く場所で大切にする人間は
もう俺なんかじゃなく
きっと彼なんだということも
そろそろちゃんと理解しなくてはいけないんだ
自分がもうこの場にいる必要がないと思った俺は、祐希を連れて、彼女達より一足早くカフェを後にした。



