「更に驚かせてしまい申し訳ないのですが、伶菜さんと結婚させて頂きたいと思っており、ご挨拶させて頂きました。」
『・・・・ご挨拶・・・』
「ええ。本来なら伶菜さんのご両親にご挨拶すべきところだと思いますが、既にお亡くなりになっているということですので、お兄さんに結婚の承諾を頂きたいと思いまして。」
佐橋さんが伶菜の彼氏ということがわかった直後に、結婚の話とかまで聞かされるんだからな
しかも ”お兄さんの承諾を得るために” だと?
伶菜の兄という立場
それが俺自身を苦しめ始めているというのに・・・
しかも、伶菜が一番苦しんでいたであろう時期に
どんな理由があれ、傍に居てやらなかった男に
正直、承諾とかしたくない
喉元まで ”勘弁して下さい” という言葉が湧き上がってきているぐらいだ
でも、その想いは完全に俺自身の勝手な想い
そして今、目の前にいる男は
「あっ、お兄ちゃん・・・あのね、佐橋クンは、あの大手の生保会社の営業マンしていてね・・・」
「結構、優秀らしいよ~。いろんな営業所から引っ張りだこみたいでね・・」
伶菜が自ら結婚して一緒になることを選んだ男
しかも祐希の実の父親である可能性が高い男
そういう人なんだ
だったら、俺が承諾する、しないの問題じゃないだろう
でも、彼にとりあえず確かめておきたいことはある
『佐橋さん。』
「はい。」
『・・・ひとつだけ、お聴きしてもいいですか?』
彼という人が彼女の目線にちゃんと合わせられるような人間なのかどうか
彼女に寄り添うことができるような人間なのかどうか
それをちゃんと知りたい
そうでなきゃ、このまま身を引くワケにはいかない
そうやって意気込んでいたものの
「ええ、どのような内容でしょうか?」
彼にそう尋ねられて気がついた。
『・・あの、佐橋さんは・・・』
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・?」
自分が聴きたいことをどう聴いたらいいのかを考えられていなかったことを・・・・・
やや緊張した面持ちで俺を見つめる佐橋さんと
不思議そうな顔で俺を眺める伶菜を前に
言葉が出てこない。
俺の今の状況に勘付いたのか、伶菜が何か言おうとしている。
またさっきみたいに、彼がどういう人なのか補足してくれようとしているのか?
「おにい・・・・」
『あの・・・佐橋さんは』
でも、それをただ耳にするだけじゃダメだ
恋は盲目とやらで、伶菜の受け売りで彼の人柄を判断してしまったら、彼が本当に伶菜に寄り添えるような人間なのかがぼやけてしまう
だから、自分でちゃんと聴かなくては・・・
そう思った俺なのに
俺の言葉が出てくるのを今かと待っているふたりの前で出てきた言葉は
『・・・・夜空を・・・眺めるのお好きですか?』
自分でも、”そうじゃないだろ?” と問い質したくなるようなお粗末な内容だった。



