「お兄さん、彼女のこと、大事にしなさいよ~。」
「そうよ~。理解ある彼女は大事にしなきゃね!!!!」
なぜか、背後からエールを受けながら。
『大事にしなさいよ・・・か。』
通勤ラッシュ時間が過ぎ、人もまばらな午後11時前の自宅の最寄り駅。
そこの改札口を出た瞬間に真正面から吹き付ける冷たい風に思わず肩を震わせる。
『そうしたいのに、それができない。』
もう少しで自宅マンションというところなのに、建物の影の切れ目の、陽の当たる場所の暖かさに誘われるように立ち止まる。
昨晩の自分の情けなさ、みっともなさが自宅に向かっている足を竦ませてしまう。
『こうやっている時間も無駄にできない筈なのにな。』
おそらく、伶菜達がここからいなくなる日はそう遠くない
だからこそ、彼女の兄貴という立場で彼女と一緒にいる時間を
少しでも笑顔でいられるような時間にすること
それが俺にとって彼女を大事にすることなんだろう
『だからこうやって、伶菜がスキそうなモノを買ってきたんだろ。』
自分にそう言い聞かせて、竦む足を一歩前へ出した。
彼女のスキそうなモノを買って帰るぐらいしか彼女を笑顔にする方法が見つけられないというなんとも不甲斐ない自分に苦笑いしながら。
『俺が情けない顔していたら、ダメだな。とりあえず "笑え" だよな。』
そして、俺はようやく辿り着いた自宅の玄関ドアを開けた。
ただいま~と自分でも驚くぐらい愉快な声を上げながら。



