「彼女が心配するぞ。」

うっかり深く眠ってしまった俺をマスターがそう言いながら揺り起こしてくれたのは、辺りが少し明るくなり始めた早朝。


「だから、彼女の好物でもちゃんと買って帰れよ。」


なんで俺が伶菜と同居していることをマスターが知っているんだ?
俺、昨日、そんなことまで言ったのか?
それとも、マスターが適当に言っただけなのか?


そう思いながらも、そんなことを問いかけると根掘り葉掘り問い詰められそうな気がした俺は

『・・・・そうします。』

素直にそう返事をして、丁寧に御礼を伝えてから店を後にした。



『確かに、伶菜のスキなものとか・・・顔を合わせるきっかけとしてはいいかもな。』

少しずつ昇る朝陽を背に受けて、通勤・通学途中の慌しく移動する人達とすれ違いながら歩く。


『あくまでも、きっかけに過ぎないだろうけど。』


昨日、三宅と抱き合う寸前までいったのに、
俺はどんな顔をして大切にしたい人に会えばいいのだろう?

三宅のことも傷付けたはず
それなのにあとどれくらい一緒にいられるかわからない伶菜との時間を大切にしたいんだ

それがどれだけ自分勝手な想いだとわかっていても



『さあ、帰るか。』


俺はマスターの助言に素直に従い寄り道をした後に、自分が帰りたい場所に向かって再び歩き始めた。