「もうお客はいないし、朝までスキにしていいから。ほら、グラス。」

だが、こうやって自分にゆっくり向き合う機会を与えてくれる彼に感謝しながら、ようやくグラスを受け取った。


「久しぶりの再会に、乾杯!」


お互いのグラスを突き合わせた後、勢い良くビールを飲み干した彼に釣られるように、俺もビールを飲んだ。

彼と学生時代の懐かしい話をしているうちに急に眠気に襲われ、カウンターに上体を伏せる。


「疲れているんだろ?毛布持ってきてやるからソファーに移動するか?」

『いや、このままでいい・・・・・すぐに起きるから。』


マスターはカウンターに伏せている俺を起こすことを諦めたのか、医者が風邪ひくと患者が困るだろ?と言いながら毛布を肩からかけてくれた。



{生前の高梨クンがよく言ってたなぁ。}


{ ”伶菜のことは尚史に任せておけば大丈夫だ” ってね。}


{それなのに、惚れちゃいけないとか・・・土俵に上がる前に不戦敗とかダメだろ。}


{惚れちゃいけない関係なんかじゃないこと・・・伶菜さんも知っているのにな。}



マスターが食器を洗いながら何か言っているなぁと思いながら、
俺は毛布の暖かさに誘われるように眠ってしまった。