「帰るわ。」
うっすらと涙を浮かべた瞳を俺から逸らしながら、乱れた衣服を整え始めた三宅。
『もう遅い時間だし、送る。』
「いらない。」
『この辺りは一本奥に入ると物騒だ。』
「平気よ。緊急コールとかで夜道を歩くのは慣れてるから。」
傷付けた
いくら抱きしめるという行為を途中で止めたとしても
もっと早く、彼女に甘えるのをやめるべきだった
心と体が別々に動いても平気だった学生時代だけでなく、
心と体が別々に動けなくなった今でも
俺は他人を欺き、そして傷付けている
『三宅。』
「・・・・何?」
『悪かった。お前に甘えるようなマネして。』
「謝らないで。日詠クンが不安定であることは理解したから。」
『・・・・・・・・・』
「それでも、土壇場で理性を手離さない ”大人” になった日詠クン、これからどうなるのかしらね。」
涙がうっすらと滲んだ瞳で俺を見上げ、艶のある黒色のハイヒールを履きながらそう言った彼女。
この時少し口角が上がったのは、若干気の強い彼女が ”落ち込んだりなんかしていない” と暗に訴えているのかと思った。
「じゃあね。」
だから、コートを着て、真っ赤なケリーバックを肩に提げて立ち上がった彼女を引き留めるようなことはしなかった。



