「今度こそ本物の乾杯しましょ。」
半ば無理矢理手に持たされた小さなグラス。
それに彼女の持つグラスがカチンという音を立てて当てられた。
「乾杯。」
飲まないと教えないという交換条件を ”ふざけるな” と突っばねることもできたかもしれない。
だが、この時の俺は、三宅のあの笑みに誘われるように、食前酒を飲み干した。
食前酒ならさほどアルコール成分が高くないだろうと油断しながら。
「いい飲みっぷりね。そうでなきゃ。」
『これぐらいで勘弁してくれ。今日は早く帰宅したい。』
杏の甘くて飲みやすい酒。
いかにも伶菜がスキそうな味だ。
ジュースみたいな後味だし、酔っ払ったりはしないだろうとも思った瞬間、目の前がグラリと揺れた。
「大丈夫?」
『・・・ああ。』
「この程度のアルコールで酔うなんて、疲れてるのね?」
彼女は心配そうに俺に声をかけながら、俺の体を支えながらソファーへ座らせてくれた。
『いつもと変わらない生活だけどな。』
彼女が手渡してくれたミネラルウオーターを口にしながら返事をする。
「それともストレス?」
『ストレス?』
「妹さんが原因とか?」
そういえば三宅には伶菜が妹だって説明させられたっけ?
伶菜がストレス原因なんて考えられないだろ?
『そんなはずないさ。』
「そうなの?あたしが日詠クンにここで話しておこうと思ったことを聞いても?」
伶菜についての話なのか?
なんで三宅が?
そういえば以前も伶菜が俺から自立とか言い出した時に、どうやら三宅が絡んでいるようなことを耳にしてたっけ?
まさか、また伶菜に何か吹き込んだりしたのか?
彼女が悩みこんでしまうようなコトを
『こんなところで話さなきゃいけない内容なのか?』
「・・・病院で耳にしたりしたら、日詠クン、取り乱すでしょ?」
『どういうことだ?』
「聞きたい?」
やけに勿体ぶる三宅に対し、アルコールの影響もあるせいか俺はイラツキを隠せない。
「怖~い。でも、他の人間から聞くよりも前に聞いておいたほうがいいわよね?・・・・大切な妹さんのコトを。」
そう言いながらニヤリと微笑む三宅。
その笑みは背筋がゾクリとするイヤな感覚を再び俺にもたらした。



