ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




「相変わらず、約束よりも早めに来るのね。ちょっと待ってて。」


レストラン入り口のすぐ横に設置されているバーカウンターに腰掛けていた同期の女性内科医師の三宅がスツールから立ち上がる。
そして、彼女はウエイターを呼び、彼の耳元で何かを伝え、再び俺に近寄る。


「とりあえず、座って。」

彼女はさっきまで座っていたスツールに再び座りながら、隣に腰かけるよう促す。


「まずは何か飲まない?」

『コーヒー飲んだばかりだ。』

「お酒よ。お酒ならいいでしょ?」


俺は三宅教授と彼が紹介してくれる医局員に会いに来たはず
なぜ彼らに会う前に三宅が現れて、
しかも、彼女に酒を勧められているんだ?


『三宅教授は?』

「あ~、急用で遅れるみたいよ。それまで、何も注文しないでただ待つだけじゃ、お店の人に申し訳ないでしょ?」

『わかった。でも、酒は遠慮したい。大事な話をする前だからな。』

彼女は溜息をつきながら、わかったわよと言いながら、生グレープフルーツジュース2つとウエイターに注文してくれた。


「お待たせしております。こちらで作らせて頂きます。」


しばらくして、半分にカットされたグレープフルーツと絞り器、ロックアイスの入ったロンググラスを載せたカートを押しながらウエイターが現れた。

彼によって手際良く絞られたグレープフルーツの果汁が良く冷えたロンググラスに流し込まれる。
カランと氷がグラスの中で動いた音とともに、爽やかで酸っぱそうなグレープフルーツの香りを鼻先で感じる。


「今でもスキでしょ?グレープフルーツ。」

『まあな。』

「久しぶりに乾杯でもしましょうよ。」


何に乾杯かわからない。
けれども、ニコリと微笑む彼女にそうやって悪態をつくのも大人気ないを思った俺は、彼女に気が付かれないように小さく溜息をついてから軽くグラスを掲げ、それに口をつけた。


さっき飲んだばかりのコーヒーの苦味を打ち消すように、柔らかな酸っぱさが口の中にすうっと広がり、つい美味いと呟く。


「そんなにグレープフルーツジュースがスキなら、くれぐれも高血圧にはならないようにね。」

『Ca拮抗薬じゃなくて、ARBとか他の系統の降圧剤を使えばいいだろ?』

「内科医はCa拮抗薬という大切な選択肢を無くしたくないのだけなのよ。」


まあ、あたしなら上手いこと降圧剤を使いこなせるけどねと笑いながら彼女もグレープフルーツジュースを口にする。
そうしているうちに、さっき俺を三宅がいる場所まで案内してくれたウエイターが彼女に近付き、何かを耳打ちする。