「祐希、結構手離しで歩けるんだな!」
こうやって病院では決して見られない屈託のない少年のようなアナタの笑顔を見ていられるのも、あと僅かなんだね
『お兄ちゃん、そろそろ出勤しないと、遅刻するよー!』
「おっ、そんな時間だったな。」
こうやってお兄ちゃんを急かしながら鞄を手渡すのも
本当にあと僅かなんだね
「あっ、そうだ・・・一度さ、お前の結婚相手っていう人に会わせろな。」
『・・・えっ?!』
こうやってあと僅かなことを数えている私に彼が背を向けたまま言ったことは、
私自身の ”これから” に関することだった。
昨晩の彼の態度からはそんな言葉を想像していなかった私。
いつの間にそんな現実的なコトを考え始めたんだろう?
「ちゃんとどんな人か知っておきたいしな。」
彼は鞄を肩にひっかけながら真後ろにいる私のほうを振り返り、かすかに微笑んだ。
そうだよね
家族が結婚相手を知らないまま、結婚を許すなんて
非常識ですから・・・・
『まさか、お兄ちゃん・・・“娘はやらん!出直して来い!” とか言って親父みたいなことするの?』
おとぼけな発言をして現実逃避してみる。
だってあまりにもお兄ちゃんが現実的なことを突然言い出すから、それについていけてなくて。
「まさか。親戚になるんだから、結婚する前に会っておくべきだろ?」
正論です
親戚になるんだから、、結婚する前に会っておくべきなのは・・
そろそろ私も現実的なコトを具体的に考え始めないといけないよね
でも、康大クンとお兄ちゃんを会わせるのはやっぱり気が進まないんだよね
饒舌な康大クンと口ぶりが上手いとは言えないお兄ちゃん
彼らの話が噛み合わないのは目に見えてる
康大クンが妊娠中の私を捨てた人(実は捨てたんじゃなかったみたいだけど)で、祐希の実の父親であることをお兄ちゃんが知ったら
いくらジェントルマンとも称されてるお兄ちゃんでも心中穏やかではないはず
でも結婚すると決めたんだから、ちゃんと会ってもらわないといけない
この前の康大クンの話しぶりは自力でお兄ちゃんを探し出して、私と結婚したい旨を伝えて納得させるみたいな感じだったけど
本当にそれでいいのかな?



