ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



「コレ・・・」

『あの時、手術着を着た男の人が夜通し名古屋から東京まで高速を走ってきて、これを届けてくれたらしいんだけど、私、まだその人にちゃんとお礼を言ってなくて・・・・』

「・・・・・・・」


手のひらの上に載せられた小さな水色の靴を彼はじっと見つめながら、黙り込んでしまった。

この反応、予想してた
そういうことを恩着せがましく言わないアナタの性格を理解してるつもりだから


『コレ、ありがとう・・・・お兄ちゃん♪』


真里が “この靴届けたの日詠先生だよ!” って届け主を断定したこともあって、この靴を東京まで届けてくれたかどうかを彼本人に確認しないままでいたけど

やっと言えた
いつか、祐希が歩き始める時に
ファーストシューズとしてコレを履いた姿を一緒に見届ける時が来たら
“ありがとう・・・” って言おうっと思っていたんだ



「ああ、いや、その・・・・・あっ、祐希、履くか?コレ。おっ、ピッタシだな。じゃ、行こうか、祐希!」

その反応も予想してたよ
照れくさそうな顔しながら、それでもなお、自分が届けたコトをうやむやにするのかなって・・・


『しまった、追いていかれちゃったな。』

こっそりと彼のリアクションを反芻して楽しんでいた私は先をゆく二人に完全に遅れを取っていた。


先を行く彼らはマンションのすぐ近くにある公園でかなりゆっくりとしたスピードで横並びの状態で歩いている。
若干足元をふらつかせて歩いている祐希を見守る彼。
その彼は見ているこっちがとろけてしまいそうな優しい顔をしている。


『パパと息子みたい・・・・』


でもこれからは、伯父さんと甥になるんだよね
こうやってお兄ちゃんの傍で祐希の成長を一緒に感じてられるのも・・・あと少しなんだ