「さーてと、そろそろ出勤するかな。祐希、今日もお互いにおりこうさんでいような♪」
「パー♪」
朝食後、彼が祐希を抱き上げて、顔を見合わせてニッコリと笑いながら交わすやりとり
これももうすぐ見られなくなるんだ
もう彼から自立するって彼に伝えてしまったから、ついそんなことが頭を過ぎってしまう
でも、ダメダメ
また泣いたりしたらお兄ちゃんが心配しちゃうから
『いってらっしゃい♪』
いつものような声のトーンで彼にそう声をかけた。
そんないつもの風景が繰り広げられていた時、
「パー、、、パー!!」
それを打ち破ってしまったのは祐希。
「どうした、祐希?椅子から降ろして欲しいのか?」
祐希の異変に気がついた彼は祐希を再び抱き上げた。
抱き上げられた祐希は抱っこされながらも足をバタつかせる。
「抱っこじゃないのか?降ろせって?」
そう言いながら祐希を絨毯の上に降ろした瞬間。
「おっ!!祐希、お前、手離しで歩けるんだ・・・伶菜、いつからこうなったんだ?」
『・・・私、伝い歩きしか見てない。・・・今、初めて見た。』
昨晩、あんなにも泣いたのに、いつもの朝が、私の心の中ではいい意味でちょっと違う朝になり始める。
「祐希、メシ食い終わったことだし、下の公園でちょっと歩いてみるか?」
「パー!!」
仲良く玄関に向かって歩き始めた二人。
『ちょっと、ちょっと!!!! 外寒いから、祐希に上着を着せないと!あと、靴も!!!!!』
二人のスピードに遅れをとった私は大急ぎで祐希の上着と靴をとりに寝室に立ち寄ってから玄関に向かった。
「俺、先に靴履くから祐希はここで待っててな。」
『先生じゃなくて・・・あっ、お兄ちゃん・・・祐希の靴!』
彼は身体を屈めて自分の靴を履いていたが、私のその声に反応して後ろを振り返ってくれた。
そしてすぐさま、その大きな手を私に向かって差し出した。
その手のひらの上に私は載せた。
あの想い出深い大切な靴を。



