だから彼が “何も言うコトはない・・・よな” なんて答えるのは
当然なんだ
だけど、私
自分自身で下した決断を彼にこんな風に特に反対されることなく受け入れられるなんて思ってもみなかった
それに
あんなにも自分がついた嘘が彼にバレないようにって思っていたのに
彼にその嘘がバレていない今のこの状況に自分から仕掛けたくせに
それなのに、今のこの状況に
ガッカリしてる?
“兄である俺に相談することなしに結婚することを決めるなんてどういうことだ” って、もっと怒って欲しかった?
怒るとまではいかなくても、もっと、何かを言って欲しかった?
もっと何かを・・・・・
言って欲しかった
私にとってかけがえのない存在であるアナタに
『・・・もっと何か、言ってよぉ・・・・』
私は再び彼の背中側から覆いかぶさるようにもたれかかり、子供みたいに彼の胸部辺りをげんこつでぽこぽこと叩きながらそう口に出してしまっていた。
「イタイ、イタイって!どうしたんだよ、突然・・・」
私の手を軽く避けようとしているも、身体は離そうとはしないまま小さく悲鳴を上げている彼。
『何か言ってよ、何でもいいから言ってくれなきゃ、手ぇ止めないから!』
暴走し始めた自分を止められない状態。
そんな私を目の当たりにしても、彼は鼻先で軽くフッと笑う。
「・・・今日、天気良かったな、、とか?」
『そんなんじゃなくて』
「そろそろ携帯電話の機種変更しようとか?」
『・・そんなんでもなくて』
「祐希の好きそうなおもちゃを見つけたけど買ってくるか?とか?」
『・・・そうでもなくて』
「明日の夕メシ、お前の好物のクリームシチューを作ってやるかとか?」
『食べたい・・・そうでもなくて・・・先生、ふざけてるでしょ?』
テキパキと仕事しているonモードの彼ではなく
いつもの、この家でのほほんと過ごしている完全offモードの彼の言葉の数々に
さっきまで真剣な態度だった私まで彼に釣られてつい笑ってしまった。
「何でも言えばいいんだろ?」
『確かにそう言ったけど・・・でも私、結婚するって言ってるんだよ・・・それに関しては、なんかないの?』
そう問い詰める私に彼はフウと大きな息をついた。
「・・・何もないよ・・・俺はただ、お前が今、ここで笑っていてくれればそれでいい・・・だからそういうことしか言えないな。」



