少しぎこちない喋り方にも違和感を感じ、その声がするほうへ振り返る。
そこには、エプロン姿で菜箸を右手に持ったまま、へらりと笑う伶菜がいた。
『おかえりなさい・・・そうだよねっ、お兄ちゃん♪』
「・・あっ、ああ。まあ、そうといえば、そうか、もな」
お兄ちゃん?
それって俺のことだよな?
突然そんな風に俺のことを呼ぶなんて
何かあったのか?
しかも、顔色が少々蒼く見える
まだ調子が悪そうだ
それなのに、風呂に入れやら、ビール飲むでしょ?やら、ついでに緊急コールの心配をしながら、ニッコリと笑ってる
声のトーンがいつもよりも高く聞こえるのは
カラ元気ってトコか?
しかも、お兄ちゃん呼びを続けてる
何があったのか直接聴きたいところだけど
「さ、お、兄ちゃん・・・祐希、もうお風呂場に向かっちゃったよ!」
『ああ、あ、おっと祐希!!!!そこはトイレだぞ!』
マイペースな祐希によってそれどころではない状況に陥り、俺は気がかりなことを抱えたまま風呂に向かった。
『なあ、祐希。ママ、今日、何があったんだ?』
「パー!!!!!」
湯船の中で膝の上に座らせた祐希に尋ねてみる。
いつものように気持ちよさそうな表情を浮かべた彼。
顔色が冴えない伶菜とは対照的に彼はゴキゲンなようだ。
『さすがに、答えろって言っても無理な話だよな?」
「キャッ!!!!!!」
浴槽の端に置いてあったあひるの人形を湯船に浮かべると、それを掴もうと楽しそうに手を伸ばす彼。
『コレ、ママに似てるよな?この口とか。』
「キャイ、キャッ」
『お前もそう思うだろ?』
「パパ~」
『パパ・・か・・・でも俺はお兄ちゃんらしいぞ。』
今日の昼間
医局で話をした保険会社の営業マンには、伶菜の存在を妹だと言った俺
『なんか変だよな~。お兄ちゃんとか。祐希もそう思わないか?』
それなのに、本人からお兄ちゃんと呼ばれて、違和感を感じずにはいられず、祐希に愚痴をこぼさずにはいられない
『でも、今の話は男同士の内緒話だからな。ママには内緒だぞ。』
「・・・ママ?」
『のぼせるといけないから、そろそろ風呂から上がろうか。』
つい愚痴をこぼした俺を不思議そうに見つめた祐希を抱え、俺達は湯船から出た。



