ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




「えっ?」

『これでお願いします。』

「ですから、これは処方した医師の認印でなくては・・・・・・あっ!!!!!」


驚いた顔で俺が押した認印の跡と俺の顔を交互に見比べる彼。


「もしかして処方箋を出されたドクター・・・・なんです?」

『ええ、一応。』


いちいち説明するのが面倒臭いと思った俺は、病院が発行する写真入りの身分証明書を彼に提示して見せた。


「た、大変失礼致しました。」

『いえ、お気になさらず。処方箋を作った人間がそれを受け取りに来るとか、あまり例がないと思いますから。』

「確かに、フェジンを院外処方することとか、ウチの薬局では殆どないので、ちょっと不思議な処方箋だなとは思っていたのですが・・・」

薬剤師の彼が言う通り、静脈注射薬を院外処方とかするのはあまり例がないだろう


「では、この患者様はご友人とかですか?」

『友人というか・・・・』


兄妹として幼い頃暮らしていて
生き別れ状態になったけれど、偶然再会して
今、また一緒に暮らしている

目の前にいる他人に
プライベートな事情をいちいち説明する必要はないだろう

そんなことを思っていることを察したのか
彼は ”あまり立ち入ったことをお聴きするのも失礼ですよね。薬品、用意して参ります” と少々申し訳なさそうな顔をしながら調剤室へ入って行った。



それから数分後、彼は薬品類と伶菜の氏名が記入された薬袋が載せられたトレイを手に持って、再び俺の元へやって来た。
説明とか不必要かもしれませんが、それも私の業務の一部なので説明させて頂きますね・・・・と言いながら、彼は薬の説明書に沿って丁寧に説明をしてくれた。


普段、自分が風邪をひいた時などは自分で処方箋を書いて、病院院内の薬局で薬を受け取る
病院内の薬剤師さんも説明とか聴いてる時間ないですよね?と説明を省略してくれたりする
だから、薬を受け取る時にこういった説明を聞くのは、学生時代以来なのかもしれない


だから、

『ありがとうございます。勉強になります。』

こういうやり取りを素直に受け入れられたりするものだ


彼は勉強になるなんて恐れ入りますと恐縮しながら、薬と領収書を渡してくれた。
それを手にして、再び自宅に向かって歩き出す。