『やっぱり早いトコ、対処しなきゃいけなさそうだな。鉄剤、静注しとくか。』
ER医師からは鉄剤の内服薬を処方されている。
それは既に東京医科薬科大学病院から処方されているものと同じもの。
その薬の内服を伶菜がサボリ気味であることも俺は知っている。
そのため、サボることができない、内服薬よりも即効性が高いフェジン静注(鉄剤の静脈注射用薬品)の処方入力するために、彼女の電子カルテ画面で処方入力ページを開く。
『一応、輸液も・・だな。』
カルテに残っていた薬の最終処方日の日付は、伶菜が妊娠中で通院していた頃のもの。
そして、俺が彼女に東京医科薬科大学に転院するように告げた日のもの。
それを見た俺は、今日、伶菜が失神したと福本さんが俺を呼んでくれた際、こんなことを言っていたことをふっと想い出した。
”伶菜ちゃんの体、ちゃんとケアしてあげてよ。主治医なんだから。”
『主治医・・・か・・・今もそんな風に思ってもらえるのだろうか?』
そんなことを思い、少し戸惑いながらも鉄剤の処方量を入力して、院外処方箋をプリントアウトしてから、帰り支度をした。
そして自宅に向かう帰り道。
祐希や伶菜が利用している院外薬局に立ち寄り、持ち帰って来た院外処方箋を薬剤師に渡す。
「保険証はお持ちですか?」
『代理の者なので、また後日でもいいですか?』
「ええ、保険証が変更されていなければ、後日でも構いませんが・・・・・あれ?」
困ったような表情を浮かべた男性薬剤師。
処方箋をじっと凝視している。
もしかして、薬品の在庫がないとかなのか?と勝手に想像していた俺を彼はやっぱり困った顔をしながらじっと見つめた。
「あの、この処方箋、医師の認印が押印されていないので、取り扱うことができないのですが・・・・」
『あ、忘れてました。ハンコ、押すのを。』
「えっ?」
すぐさま、鞄の中から印鑑を取り出す。
「あの、必要なのは医師の認印なのですが・・・」
『じゃあ、処方箋を一度返して頂けますか?』
「わざわざ、足を運んで頂いたのに申し訳ありませんが、もう一度、病院で処方箋を発行して頂くよう、お願い致します。」
彼はそう言いながら、お大事にという言葉も添えて俺に処方箋を手渡してくれた。
その彼の目の前で、持っていた認印を医師名の書いてある処方箋の箇所へポンと押す。



