「・・・・・・・・・」


私のその一言で、彼は何も言葉を発することなく、ローソファーに腰掛け、私に背中からギュッと抱きつかれたまま、そのままでいてくれる。

その状態で私はそのままいろんな想いを自分の頭の中に巡らせる。
ずっと心に秘めてきた彼がスキという想いとサヨナラをするために。



以前はなぜ懐かしいのかわからなかった・・・彼のこの香り
爽やかなグレープフルーツミントの香りがベースにあるんだけど、
彼の身体に染み付いてしまってる薬品とか消毒薬のような香りと煙草の香りもかすかに混じっている
白衣を着ているときはドライクリーニング上がりの糊の香りもその上に被さる

そんな彼の香り

でもそれらは、自分の父親が実は医師だったという事実が判明したことによって
なぜ懐かしいのかわかった気がした

それはきっと父親も仕事上で触れていたモノの香りが混ざっていたから
彼も父親と同じ仕事に従事しているから
だから懐かしかったんだ


そしてこのソファー

最初、この家にやって来たばかりの頃に置かれていたソファーは本革張りのものに白系のカバーをかけた座面が高めのモノだったのに

しばらくして突然「なんとなく形が気に入って衝動買い」なんて言いながら、今使ってるこのローソファーを購入してくれたんだよね


でも知ってる
それは決して衝動買いなんかじゃなくて
何冊ものホーム雑貨雑誌にドッグイヤーを付けて検討に検討を重ねた上で
祐希が転落したりせずに安全かつ快適に過ごせるようなモノを購入してくれたことを


その次はこの絨毯(じゅうたん)

私が食事の準備をしている間とかに、ここで彼と祐希はゴロゴロしながらじゃれあっていたっけ
祐希はいつも彼に自分を足の上に載せて飛行機のマネさせてって彼におねだりしてた

加えて、この・・CDプレーヤー
祐希がイタズラして電源スイッチ壊してしまったのに
彼はそれを怒るどころか、修理した後にラジオのチューニング方法を、ジェスチャー交えて教えてた