そんな私の耳に

ドクドクドクッ…………

低くて速いリズムの音が滑り込んでくる。


私の心臓の音、こんなに近くで聞こえちゃうんだ
日詠先生にも聞こえちゃってるのかな?

なんか恥ずかしいな



ドクドクドクッ


「聞こえるか?」

相変わらずモニターを真剣に見つめてる日詠先生。


うわっ、やっぱり聞こえちゃってるんだ・・・・私の胸のドキドキ

『ハ、ハイッ!!!』

ひ、日詠先生の顔、まともに見れないよー



「この音、胎児の・・・君のお腹の中にいる赤ちゃんの心臓の音だ。」

日詠先生がキーボードを操作した直後。
その音は更に大きくなり、部屋中に響き渡った。


えっ、コレ、私の心臓の音じゃないんだ
私のお腹の中の赤ちゃん心臓の音?!


『こんなにトクトク、リズムが速くて・・・赤ちゃん苦しくないのかな?』

私は初めて耳にする胎児の心音を聴いて心配になった。


「赤ん坊の心拍はすごく速いものなんだ。大丈夫だよ。赤ん坊、頑張ってるよな・・・」


超音波検査の写真を初めて見た時には漠然とした不安に襲われて自ら命を絶とうとした私。
それなのに、赤ちゃんの心臓の音を聴いたら
急に初めて赤ちゃんの事が愛しくなった。


「ようやくいい顔をするようになったな。」

その一言で私は日詠先生に見つめられていることに気がついた。


あたたかい笑顔で私を見つめる彼。
その時、私は一瞬にして、全身が柔らかい布でふわりとくるまれているような感覚に陥った。

日詠先生はただ私を見つめていただけなのに
こんな感覚を抱くのは初めて・・・