「さてと、そろそろ戻らなきゃね。」
福本さんはその後、もう滴下しなくなった点滴に繋がっていた針をそっと抜き、血が滲み始めた部分にそっと絆創膏を張ってくれた。
そして、”じゃ、またね♪” とだけ言い残し、空になった小さな点滴パックを再びぶらぶらと振りながら処置室から出て行ってしまった。
点滴を終えた私は祐希を抱っこしたまま閉店準備をしていた病院の花屋売店に立ち寄った。
そして、その店先に飾ってあった小さなブーケ達の中からオレンジ色のガーベラで造られたものを選んで購入し、あの場所に向かった。
さっきまで激しく降り続いていた雨は降っているかいないかわからないぐらいの小降りになっている
あの場所へ繋がる出入り口のドアを開こうとドアノブを回すも、水滴がまとわりついているせいかいつもよりも更に鈍い金属音が響く。
キーーーギシギシギシ
ドアについている水滴が飛び散らないようにゆっくりとドアを開けると、まだ雨はほんの少しパラパラと降っていたが、雲が風に乗ってゆっくりと流れ、空が少しずつ赤く焼け始めていた。
所々にできている水溜りも慎重によけながら、私は日詠先生が昼休みにいつも寝転がっているベンチに近付く。
そして、そこで祐希をつかまり立ちをさせ、左手に持っていた小さなブーケを転落防止用の防護柵に立てかけてから空を見上げてみた。
『もうすぐ、日が暮れるなぁ。』
こうすればもしかして
日詠先生が天国のお父さんと話をしているように
私もお父さんと話ができるかもしれないと思って・・・
だってここはお父さんが神様に連れていかれた場所
だから、日詠先生もここで空を見上げてお父さんと話をしてるんだよね?
だったら私もここで
お母さんが好きだった色のガーベラを供えて彼と同じように空を見上げれば
お父さんと話ができるかな?
本当はお父さんの好きだったらしいスカイブルー色の花を供えても良かったけれど、その色の花ってなかなか思いつかなくて
お店も閉店準備してたから、その色に近い色の花をわざわざ探して貰うのも申し訳なくて
だからお母さんの好きなオレンジ色のガーベラにしたの
きっとお父さんとお母さんは天国で昔みたいに一緒に過ごしているから
お父さんが私の存在に気がつかなくても、お母さんがきっと気がついてくれると思ったから
その色のガーベラで造られたブーケにしちゃったんだ



