ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



『福本さん・・・』

「泣いてなんかないわよ・・・高梨先生に叱られてしまうから・・・まだ、伶菜に伝え足りないぞって。」


彼女の頬には、その言葉通り涙は流れていなかった。
でも、嗚咽があがるのを必死に堪えているのか彼女の両肩は不規則に揺れていた。


『福本さん・・・・無理しないで・・・』

「いいのよ・・・伶菜ちゃんはちゃんと事実を知ってたほうがいいし、、ナオフミくんはきっと決して自分からはそれを語ろうとはしないから・・・アナタの心にも傷を残すコトを恐れてね。」

私に横顔しか見せていなかった彼女はゆっくりと私の方を向き、かすかに笑ってくれた。
そして再び口を開く。


「そんな忙しすぎるこの病院を・・・この病院を頼りにしてきて下さる患者さん達を高梨先生は心の底から大切に想っていたのよ・・・」

福本さんは丁寧にその言葉を紡いだ。
その分、私の心にはズシンと響く。


『じゃあ、なんで嘘を・・・お父さんは癌で亡くなったなんてそんな嘘を・・・お母さんはなんで私に・・・』


でも、母親に嘘をつかれていたという事実は否めない
目の前にいる福本さんが嘘をついているようには思えない
母親はなんのためになんでそんな嘘をついたんだろう?



「嘘っていうのはね、人を騙すためにつくモノだけど・・・・自分自身を守ったり、自分自身に利益をもたらそうとする為の嘘ばかりじゃなくて、自分が大切に想っている人を守る為につく嘘というものもあるのよ・・・・」

『大切に想っている人を守る為につく嘘・・・・?』

「そう、伶菜ちゃんのお母さんはきっとアナタが・・・この病院に父親を殺されたと思わないように・・・そして高梨先生が大切にしてきた想いを色褪せさせないように・・・そのためにアナタにそんな嘘をついたんだと思うわ・・・・」


”嘘”・・・それはいけないものと決めつけていた

信頼を失うものであり
大切なものを失うもの
ずっとそう思ってた

でも、もし福本さんが言う通り、大切な人を守る為につく嘘があるならば
私はお母さんがついてくれた嘘は
私にとって必要不可欠だったかもしれない

過労死という事実
それは物心がついたばかりで父親の死因を知ろうとした幼すぎる私にとって到底耐え難いものであったろうから・・・