「今のナオフミくん・・・いえ、今の日詠先生は、私がよく知っている、私達ナースが皆、慕っていた高梨先生にダブって見えるのよ。」
『今の日詠先生が、父に?』
きっとこの言葉は日詠先生にとって最高の誉め言葉
私も嬉しい
だって日詠先生を見ていれば、お父さんがどんな風に産科医師という仕事に取り組んできたのかがわかるということを確信させてくれる言葉でもあったから
「それはもうそっくり!!!!! でもナオフミくん、あんなコトがあってよく立ち直ったと思う・・・」
立ち直る?
亡くなった久保先生のこと?
それとももっと昔のもっと別のこと?
あんなことって?
『あんなコトって一体・・・』
ただならぬニオイを感じずにはいられなかった私。
そして福本さんは処置室の窓にパラパラと叩きつける雨をじっと見つめてゆっくりと口を開いた。
その横顔には
「いつも彼が昼休憩を取るあの屋上で、まだ幼い少年だった彼は高梨先生が亡くなる瞬間をその目で・・・見てしまったのよ・・・・」
さっきまではなかった影がすっと差したように見えた。
見てしまった
高梨先生が亡くなった瞬間
あの屋上で
いつも彼がって・・・・・
『彼って、ひ、日え』
「そう、日詠先生・・・まだ7、8才くらいだったまだあどけなさが残る少年だった彼よ・・・」
この病院の屋上
どこまでも広がる澄んだ青空を独り占めできる空間
日詠先生が短い昼休みを誰にも邪魔されずに過ごすことができる空間
彼の後輩だった久保医師が自ら命を絶ってしまった空間
彼の妹である私も、祐希がお腹の中にいた時に衝動的に飛び降りてしまおうとした空間
そして、彼にとってかけがえのない人だった高梨拓志という今は亡き人物と彼がそっと話をする場所でもある空間
そんな空間で
彼にとってかけがえのないその人が亡くなる瞬間に居合わせてしまったなんて
7、8才のまだあどけなさが残る少年には重過ぎる事実
あの青空にはこんな壮絶な事実まで隠されていたなんて・・・
ここの屋上というその空間は
彼にとってかけがえのない場所なのに
あまりにもいろいろなコトが起こってしまっていた場所だったんだ



