生命保険とかあまり身近に感じていなかった
保険を熟知している人が勧めてくれるから間違いないだろうとその人に言われるがまま、加入した
だから、その保証内容を熟知なんてしていない
今まで仕事ばかりしてきて
そういうことに対して深く考えたりしたことはなかった
「余計なお節介に当たるとは思いますが、いざという時にちゃんと役に立つ保障内容かどうか、一度確認されたほうがいいかと思われます。」
でも、
大切な後輩医師であった久保を亡くしてしまったり、
一時的とはいえ、自分の耳が聴こえなくなったりしたりと
いつ、自分に何が起こってもおかしくないかもしれない
この生命保険営業マンの一言がきっかけになり
俺はそんなことを考えてしまった。
両親は東京という離れた場所に暮らしている
俺自身は名古屋で伶菜と祐希と暮らしている
人の命は、どこでどう終わるかなんて誰にもわからない
年を取っている人から命の終わりを迎えるわけではない
もしかしたら、
両親よりも、俺のほうが先にそれを迎えてしまうかもしれない
それに俺が先に亡くなってしまったら、今、一緒にいる伶菜達もどうなってしまうのだろう?
だから、自分の ”もしもの時” に備えて、彼らに遺してあげられるもののひとつになるかもしれない保険というもの
それをを改めて振り返るのも悪くはないかもしれない
『確かに、もしもの時のこととか・・・考えなきゃいけないことかもしれませんね。』
目の前にいる誠実そうな生命保険営業マンと言葉を交わした俺は
なぜかそう思った。
そして、そんな俺の腹の中を探ったのだろうか?
「もし、保険の内容とかでご不明な点とかがありましたら、私どもがご一緒に確認させて頂くこともできますが、いかがでしょうか?お忙しいようでしたら、少しの時間だけでも構いませんので。」
彼は俺のほうにグイッと一歩踏み込んできた。
『ええ、それじゃ、少しの時間なら・・・お願いします。』
俺はそんな彼を受け入れるように、隣のデスクの椅子に腰掛けるように手でどうぞと合図をした。
「お忙しい中、ありがとうございます。それでは早速・・・」
ニコリと笑いながら、俺が勧めた椅子に腰掛けた彼。
なぜだかわからないけれど
シルバーフレームの眼鏡をかけ、短めの黒髪である誠実そうな青年を前にして俺は
背筋をゾクリとせずにはいられなかった。



