ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




「こうやって屋上に来ても、無茶しないって事は生きようという意思がちゃんと固まったんだな?」


先生、話、すり替えた?!
しかも涼し気な顔して


『は、ハイ。まあ。』

日詠先生が曖昧な返事をしていたのが気になって仕方なかったけれど、すり替えられた話の内容が自分にとってシビアでしかも疑問形だったので私は仕方なく力のない返事をしてしまう。


「じゃ、また超音波検査やっても、逃げたしたりしないよな?」


日詠先生の切れ長でキレイな目。
それが私の目を捉えたまま離そうとしない。

呑まれた
完全に日詠先生のペースに呑まれてしまった

でも嫌じゃないかも


『ハ、ハイ。お、お願い、します。』

私は何度も言葉を噛んでしまいながらもなんとか返事するのが精一杯だった。



そして、日詠先生と過ごした屋上での休息の時からたった一日で私は早速、超音波検査室に呼ばれた。
検査室までの廊下は薄暗くて静かで。
ついこの間、もう一度自ら命を絶とうとここを駆け抜けて屋上へ向かった事を想い出してしまう。


私のお腹の中に赤ちゃんがいるって言われたけれど
酷い悪阻(つわり)もあるけれど
この前の超音波検査後に白い小人のようなものが写っている写真も見せられたけれど
本当に私のお腹の中には赤ちゃんがいるんだろうか?


というか
三股をかけていた男に溺れていただけの私が
子供が欲しくて作った訳じゃないこの子を
私は心から愛する事ができるのかな?


自分の置かれている状況に対し、今ひとつ現実感を抱けていないでいた私は、そんな事を考えながら検査室まで続く廊下をゆっくりと歩いた。

検査室の重くて頑丈なドアを開けると、真っ暗な部屋の中、超音波のモニターだけが白く浮かび上がっている。
まだ誰もいない。
私は白く硬そうなベットに腰掛け、脚をブラブラさせていた。


「待たせてごめんな。」


緑色の手術着の上に白衣を纏った日詠先生が分厚い紺色のカルテらしきファイルを持って現れた。
うっすらと湿っている先生の手術着の襟元。

きっとさっきまで手術してたのかな?
日詠先生は忙しそうだけど、私の前では決して忙しい雰囲気を持ち込まない


『いえ、私も今、来たばかりですから。』

私はそう言いながらベットに横になった。