【Hiei's eye カルテ40:風向きが変わる時】



夜中に帰ってきて、伶菜に看病されながら眠りについた翌朝。
額の端にかろうじてひっかかっていた湿り気のあるタオルの感触で目が覚めた。


『久しぶりによく寝た。』

コートはなんとか脱いだものの、着替えないままベッドへ潜り込んだ結果、汗が浸み込んだYシャツが体に(まと)わりつく。


『擦り下ろし林檎が効いたみたいだな。』

Yシャツを脱ぎながら大きく背伸びをしてから、カーテンを開ける。

久しぶりに自宅の窓から見えた朝陽。
それに眩しさを感じながらも、気分はいい。


『シャワー、浴びとくか。』

熱が下がり、少し軽くなった体でバスルームへ向かった。


洗面台の鏡に映った自分の顔。
自分でも少し痩せたと自覚できるぐらい顎のラインがシャープに見える。


『そろそろ人間らしい生活しないと、流石にヤバいよな?』

ここ最近、病院にずっと泊り込んで過ごしてきた自分の無養生ぶりに反省しながら、シャワーを浴びた。


そして、バスタオルを頭からかぶったまま、リビングに向かう。
途中、伶菜達が眠っている寝室の前を通ったが、物音は聞こえてこない。


『昨夜、遅くまで看病してくれていたみたいだしな。ゆっくり寝ていてくれるといいんだが・・久しぶりに俺が作ろうか、朝飯。』


午前6時半。
俺は右手にフライパンを持ったまま、冷蔵庫のドアポケットから玉子を取り出して、それをフライパンの中に割り入れる。



朝食を作っているキッチンに、ドアがガチャっと開く音が響き渡る。
そちらのほうへ目をやると、そこには唖然とした様子の伶菜がルームウエア姿で立っていた。

朝食ができつつあることを伝えると、彼女は何か言いたげに眉をしかめてこっちをじっと見る。


ついでに仕事があるから先に食べてもいいか尋ねた際、

「しゅっ、出勤?!」

彼女は冗談でしょ?みたいな声色で逆に俺に問いかけて来た。