【Hiei's eye カルテ39:帰りたい場所】


久保が亡くなった日の前後あたりから多忙を極めていたが、なんとか一段落し、久しぶりに帰ってきた深夜の自宅。
無性にアイスクリームが食べたくなり、それを冷凍庫の中にあるかどうかを探している最中だった。


「おかえりなさい・・」

ルームウエアにカーディガンを羽織った伶菜が遠慮気味に声をかけてきた。


『起こしちゃったかな?・・・ゴメンな。』


まさか起きているとは思っていなかった俺は正直驚く。

ハンパないダルさを感じている体を動かして、家のベッドまでなんとか辿りつかなければいけないという、元気な時は感じない緊張感。
それが味噌汁を飲む?と聴いてくれた彼女の顔を見て、一気に緩んだ。

それと同時に感じた彼女に対する違和感と距離感。

味噌汁の入った鍋を火にかけ、その様子をじっと見つめている彼女の何かを考え込んでいるような表情を見かけた俺は

『悪い、このままでいて。』

感じた違和感と距離感を振り払いたい一心で、俺は彼女の肩に自分の額を載せた。

俺の無茶な行動に驚いたのか微動だにしない彼女。



余計に驚かせちゃったよな
流石に呆れるよな

彼女から感じた違和感と距離感
それを払拭しようとした俺は、衝動的ではなく意図的に彼女に触れた。

でも、額を通じて感じた彼女の体温が俺に伝わってきたせいなのか、自分の体の火照りを酷く感じる。


熱に浮かされそうな中でも俺は、

『夜中に帰って来てさ、明かりが点いてるっていいよな・・帰る場所があるって感じでさ・・・・』

「・・・・・・」

『不謹慎かもしれないけどさ、俺・・・あの場所で命を落としたのがお前じゃなくてよかったと思ってる。もしそれがお前だったら俺・・』

彼女に対して感じた、原因の見えない違和感と距離感を俺なりに払拭しようとした。


でも、

『俺・・・今の俺はきっといなかった、、、かも、、、、しれ・・・』

「日詠先生!!!!!!」

より激しく熱を感じた俺は、その熱が彼女の体温を感じた影響ではなく、自分の体調が本当に悪いことに気が付いた。
そして、風邪とかならうつしていけないと急いで彼女から離れた瞬間、立っていられないぐらいの倦怠感を感じ、冷蔵庫へ倒れこんだ。