私と祐希もそれから暫くして自宅マンションに戻った。
けれども、部屋は真っ暗で、作っておいた味噌汁を飲んだ形跡もなく、日詠先生が帰ってきた気配は感じられなかった。
『まだ帰ってきてないんだ・・・』
結局、東京の日詠先生から聞いた過去の事実を日詠先生本人に伝えるか伝えないか決められないまま自宅へ戻ってきてしまった私は、彼の姿が見えないことに密かに胸を撫で下ろす。
先生達は日詠先生にそして私に幸せになって欲しいからと過去の事実を教えて下さったけれど
今、私は幸せなんだ
兄妹だからこんな風に過ごすことができている?
私は彼の妹だから、彼に大切にして貰えている?
もし、妹じゃなくなったら
今の幸せなこの空間が私の前から消えてしまう?
そんなコト考えられない
考えたくない
今の私にはこの空間が
何物にも変えがたいかけがえのないモノだから・・
カチャカチャ、ガチャ!
深夜2時、ずっとそんなことを考えていて眠れなかった私の耳に突然滑り込んできた音。
玄関から聞こえてきたその音によって私は決断を迫られた。
日詠先生が知らない過去の事実を知ってしまった私が
彼にどう向き合えばいいのかを。