「さあさあ、ベビーがお腹を空かせて待っているみたいだから、早紀ちゃん特製ベビーディナーを食べさせてあげたら?」


彼らの笑顔に包まれ温かい空気が漂い始めた頃、近くで様子を見守ってくれていたらしいマスターがタイミングよくそう声をかけながら、離乳食が盛り付けられたトレイを私に手渡ししてくれた。

早紀さんが格闘しながら作ってくださったその離乳食は、にんじんがゆと煮りんごというとても手がかかるメニュー。


「早紀ちゃんにはコレ!」


マスターがグッと握った拳を早紀さんの前に差し出し、彼女もそれを受け取ろうと右手を彼の拳の下に近付けた瞬間。
私は早紀さんの右手の指先のところどころが赤くなっているのに気が付いた。
そして、マスターが早紀さんの手のひらに載せたモノは絆創膏。



「伶菜ちゃん。早紀ちゃんさ~、仕事ばかりしていて料理なんてロクにしたことないから、指先をすりがねで擦っちゃったりして何度も作り直してたんだよ・・・だから、是非食べさせてやってね。」


恥ずかしそうに絆創膏を受け取った早紀さんとは対照的に、マスターそして東京の日詠先生は優しい笑顔で笑っていた。


『ハイ!ありがとうございます。早速いただきますね!』


日詠先生が生後4ヶ月だった時に生き別れた早紀さんはきっと離乳食を作ったことがなかっただろうに。
そんな早紀さんの心遣いが凄く嬉しかった。



『祐希、いただきます~♪』


私も笑顔で早紀さんにお礼を言って祐希に “早紀ちゃん特製ベビーディナー” を食べさせてあげた。

そして、彼が美味しそうに食べる姿を嬉しそうに見守って下さった東京の日詠先生と早紀さんは東京へ帰って行った。

“尚史に無理しすぎないように伝えて欲しい” という親らしい言葉までをも私に託して・・・・