真実を知りたい
私の知らなかった彼、そして彼を取り巻く親達の
過去に関する真実を
「・・・・・・・・・」
そんな私の問いかけに対し、早紀さんは髪を掻き揚げていたその手をおもむろに解き目を閉じた。
そして彼女の息がふうっと漏れた。
「私、尚史に本当のコト何ひとつ伝えてないの・・・あの時、3才だった彼を迎えに言ったとき、幸せそうに見えてしまったから・・・本当のコト、言え、、、なかっ・・・・・」
堰を切ったかのように突然泣き崩れた早紀さん。
自分が母親だということを日詠先生に言いたくても言えなかった早紀さんの心中を察してしまった私は、自分から彼女に問いかけたにも関わらず彼女に返す言葉が見つからない。
日詠先生に手を上げてしまったことを後悔し、反省し、そして彼のために小児循環器科医になったのに・・・彼の中での父親、母親は、東京の日詠先生夫妻ではなく、ウチの両親だったなんて
・・・
ポンポンッ・・
息を押し殺しながら泣いている早紀さんの右肩を東京の日詠先生が優しく慰めるように叩く。
「早紀が尚史と一緒に過ごしていた時、早紀もそして僕も、医師としての自分の将来しか見えていなかったのに対して、高梨と詩織さんは3才の尚史目線で物事を捉えていた。」
再び東京の先生が話し出す。
今度は自分が泣き崩れた彼女を支えようという空気が伝わってくる。
「だから、いくら自分達が血の繋がった親であることを尚史に伝えたところで、高梨達の存在感には敵わないと思ったんだ・・・彼が幸せなら、そのままでいい、それが僕らが選ばざるを得なかった選択肢だった。」
『・・・・・・・・』
血が繋がっている子の親という役割を諦めるという選択肢
親になろうと努力した上でそれを選ばなければいけなかった
いくら日詠先生がまだ物心がついていない頃とはいえ、それを選ばなくてはならなかったことはきっと
苦しかったですよね?
辛かったですよね?
「でも、高梨があんな形で亡くなってしまって・・・尚史はかなりショックだったみたいでね・・・そんな尚史の背中を上手に前へ押し出してくれたのも詩織さんだった。」
『お母さんが・・・・』
「ああ・・・“お父さんのいなくなったウチでは尚史がなりたがっているお医者さんにしてあげられる余裕がないから・・・・・お医者さんでもある日詠さんのところで勉強させて貰いなさい、そして立派なお医者さんになったら伶菜と私を迎えに来て!” って・・・」
『立派なお医者さんになったら・・・迎えに来て・・・・』
ロクに言葉を発することができなかった私からようやく出た言葉は
東京の日詠先生が教えてくれた・・自分の母親の言葉だった。



