「今の早紀には尚史くんを育てることはできないから、“早紀が精神的に落ち着くまで尚史クンは自分が養育する” って言い残し、尚史を連れて名古屋へ帰ってしまったの・・。」


早紀さんの親友であるお母さんが日詠先生を引き取ったんだ
傷を負ってしまった彼を・・・


「私は一人になってしばらく頭を冷やした。何がいけなかったのか、これからどうしたらいいのか・・・自問自答の日々を過ごして・・・そして私は、医師を辞めることにした。」

『医師を辞める・・・?』

「そう。一刻も早く医師の仕事に戻らなきゃという焦りもストレスの一因だと思ったから・・・医師を辞めて普通のお母さんになろうと決め、私は名古屋の詩織のもとへ一人で尚史を迎えに行った。」


早紀さんの人生の中で最重要だったであろう医師という仕事まで辞める覚悟をして日詠先生のお母さんになる・・・そこまで決意したんだね

大事にしていたことを捨てても
日詠先生と一緒にいることを選んだ

そこに辿りつくには相当の葛藤があったんだと思う
それでも、早紀さんはまだ乳児だった日詠先生との生活を選んだ



「そうしたら、そこに今度は高梨先輩が私の前に立ち憚かったの・・・“今のキミにはベビーを返せない、会わせることはできない。東京へ帰りなさい” って・・・あんなに優しかった高梨先輩がそう言ったの・・・」

『・・・・・・・・・・』


“父はなんでそこまでして日詠先生を早紀さんに引き渡そうとしなかったんですか?”
・・・私の頭の中にふっと湧き上がった素朴な疑問。

でも、私は聴けなかった。
彼女のさっきまでの冷静な語り口がかなり崩れているような気がしたから。


それでも彼女は細い指で前髪をさっと掻き揚げながら、言葉を紡ぎ続けようとする。
ここで終わってしまってはダメだという気持ちがその仕草から伝わってくる。



「高梨先輩は感情だけでそんなことを言ったりしない人だっていうのはよくわかっていたから、私は深々と頭を下げ東京へ戻ったの・・・自分の何が足りなかったんだろう、何をすべきなんだろうってひたすら考えながら新幹線の車窓から見える景色をじっと眺めていて・・・」

『・・・・・・・・』

「そして東京駅の改札を通ろうとしたら、高梨先輩がなぜあんなことを言ったのか少しだけわかった気がしたの・・・・」


東京駅の改札
そこで早紀さんは何がわかったんだろう?
お父さんは何を考えて、早紀さんをひとりで東京へ帰らせたんだろう?


『・・・どんなコト、だったんですか?』