ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




彼みたいに、自分の腕を信じることは大切なことだろう

できないと思いながら患者さんに向き合えば、
消極的な治療に繋がってしまうこともあるだろう

でも、自分の腕を過信してしまうのも問題だと思う
患者さんの身に良くないコトが起きたりした時に、自分の腕を信じて無理矢理治療を押し通すという状況判断に欠けた行動を起こしてしまうかもしれない

現に、久保を招いたと思われるベビーの腕神経叢麻痺(わんしんけいそうまひ)は、分娩介助中の彼がベビーの右腕を無理矢理引っ張ったことも発症の一因として挙げられている



目の前の森村という男の整形外科医師としての資質を知らず、彼の腕を信じられない俺も悪いが、それでも

『貴方の心遣いには感謝します。ベビーの主治医の依頼の件についてはもう少しこちらでも考えさせて下さい。』

俺のストレスを軽くしてやろうという彼の想いは嬉しいが
そのベビーに、家族に
再び同じような苦しみや哀しみを感じさせたくない


「ふ~ん、即決して貰えないのは、俺への信頼はまだまだってトコなんですねぇ。」

『・・・・・・・』


彼の腕はわからないが、今の発言からも他人の心の中の想いを見抜くことは長けていることはわかった


「でも、そのうちに俺の腕が必要だと思う時が来ますよ。だから、俺は待ってますから。アナタから治療依頼が来るのを。」


そう言い切りながら、自分から俺の前を立ち去った彼。
医師としての自分の腕を信じきれない自分と真逆な彼。


『・・・凄い自信あるんだな。』


そんな彼を脅威的に感じるのは俺自身に問題があるからだろうか?
なんかそう思うと、気持ちがようやく浮上しそうだったのに、また沈みそうな気分になる


そんな時に頭を過ぎったのは、
さっき屋上で祈るような格好で俺を見つめていた伶菜の姿。



『俺も頑張らないといけない・・・早くウチに帰りたいけど。伶菜と祐希、今、何やってるんだろうな・・・』



早く家に帰りたいという本音をこぼした俺は
俺の背中を押していてくれる彼女の笑顔を想い浮かべながら、業務に戻った。