彼が自ら、日詠先生そして私が幸せになって欲しいからと話し始めて下さったんだけど
だから聴いてみようと思ったんだけど
彼にそんな辛い想いを想起させてしまうのならば
聴かないほうがよかったのかもしれない
どうしよう・・・・
「私が説明するわ、その後、私達に何があったのかを・・・・」
私の背後から突然聞こえてきた落ち着いている大人の女性の声。
振り返るとそこには
アイボリーカラーのパンツスーツをスラリと着こなしている背の高い女性が離乳食らしきモノが盛り付けられているトレイを両手で持ったまま、私のすぐ真後ろで立っていた。
「・・・早紀。」
早紀って
早紀さんっ?!
「ここ、お邪魔するわね。」
心配そうな顔でその女性を見つめている先生とは対照的に
彼女は顔色一つ変えずにそう言いながら、両手で持っていたトレイをテーブルの上に置く。
そして、先生の左隣でもあり、私の正面でもある席に腰掛けた。
その瞬間、湿っぽくそして重くなりかけていたその場の空気が
一瞬にして引き締まったような気がした。
そんな彼女に私は目を奪われずにはいられない。
自分の母親が生きていればと彼女と同じ年齢
おばちゃんなんて言葉は絶対に似合わない
年齢を感じさせないくらい
凛としていて、気高さまでも感じられる
この人が、日詠先生の本当のお母さんなんだ
日詠先生に似てる
日詠先生は早紀さんに似ているんだ・・・
「ご挨拶が遅れてしまって、大変失礼致しました。日詠の妻の早紀と申します。私がお話します。私達親子に何があったのか・・・を。」
彼女はそう言いながら、私の瞳を真っ直ぐに見つめた。



