「僕はそんな彼女の言葉を鵜呑みにして、彼女と結婚をし、身重の彼女を日本に残したままボストンへ旅立ってしまった。それが僕が犯してしまった取り返しのつかない過ちの始まりだったんだ・・・・早紀に対して、尚史に対して、そしてキミに対してもね・・・」
取り返しのつかない過ち?!
先生の奥さんである早紀さんに対してだけでなく
日詠先生に対して
そして
私に対しても・・?
『取り返しのつかない過ちって・・・何があったんですか?』
肩透かしにあってしまったと思いながら彼の話に耳を傾けていたのに、核心に近づいてきている気配を感じ始めた私はすっかり彼の話に引き込まれてしまっていた。
だから、私は彼の言葉の続きを自ら促すようなコトをする。
だって核心に触れたかったから。
なぜ日詠先生は血が繋がっている東京の日詠先生夫婦のもとを離れ、私達と一緒に暮らしていたのかという核心。
それにもう少しで触れられそうだったから。
「早紀は日本に残って一人で無事に尚史を産んでくれた。僕は国際電話越しに彼女の喜ぶ声を聞いて安心しきっていて、帰国しないまま留学を続けてしまっていた・・・・だから、僕は気付いてやれなかったんだ・・・・彼女の心境の変化とか葛藤とかに。」
遠い目をしながら語る日詠先生の口調は明らかに重くなっていた。
自分自身を責めてしまっている
そんな彼の様子を目の当たりにした私は、自分が彼に言葉の続きを促したこと
それによって、先生が抱えていた過去の辛い想いを再び想い起こさせるような酷いマネをしてしまったコトをようやくその時に自覚した。



