父さんの親心がこもったその言葉は、俺の心を動かしただけでなく、
”名古屋医大の医局員の完全撤退の取りやめ”
という三宅教授の心をも動かした。


昔から父さん、母さんに甘えるのが下手だった俺


しかも、医師を目指すきっかけが
父さんではなく高梨の親父だったという
父さんにとっては親不幸者の俺

それなのに、父さんは
俺の信念を貫き通すことを選ばせてくれようとした

申し訳ない想いでいっぱいだったけれど
嬉しかった

親不幸者の俺だけど
いつかは
父さんそして母さんに親孝行できるように


『三宅教授、申し訳ありません。僕、戻ります・・・自分が必要とされている場所に。』


そして、久保にちゃんと顔向けできるような産科医師になれるように
もっと精進しないといけない



そう心に誓って、受けた緊急コール先に向かうために屋上を後にしようとした時、
こっちを向いて両手指を組んで祈るような格好をしている伶菜を見つけた。


来ていたんだ
居てくれたんだ
見守ってくれていたんだ
祈っていてくれたんだ

久保を失った心の痛みが残る中で
なんとか前進しようとしている所で

伶菜が居てくれることが
こんなにも心強いとは思っていなかった

誰かに守られているという感覚は
こういうものなんだと初めて知った


もう認めないわけにはいかない

『信じていなかったんだけどな・・・運命とかそういうの。』


新笠寺駅で偶然見つけ出した伶菜
でも偶然じゃない、運命なんだと思えてくる

それぐらい俺にとって伶菜という存在は
何物にも換え難い
かけがえのない存在となっているということを
認めないわけにはいかないんだ


『きっと俺次第なんだ・・・運命がどうなるのか、は。』


その存在に背中を押されながら、俺は再び走り始めた。
自分の信念に繋がると信じている道を
そして運命が導いてくれるであろう俺と伶菜の未来に向かって・・・