ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




それなのに、三宅教授は
名古屋医大の医局員の完全撤退案の取り下げと引き換えという交換条件を挙げてまで、こんな俺を彼の奥さんの病院の医師になって欲しいと言ってくれる

しかもその病院なら俺の産科医師との信念を貫き通すことができるとも言ってくれている
俺を待っている妊婦さんが大勢いるとも・・・

身内が経営する病院に医師を紹介するというのは、多分医師なら誰でもいいというワケではないと思う
どちらかというと期待されている面が大きいのではないか?

なんで自分が?とも思う

期待される程の腕なんか持っていない
後輩ひとり上手く育てる手立てをしてやれなかったぐらいだ

それに俺の信念はここでしか貫き通すことはできない


でも、
ここから、名古屋医大の医局員が完全撤退してしまったら、
ここの産科診療は全く機能しなくなる

三宅教授が提示した条件を俺が呑まなかったら、
ここを信頼して受診して下さっている患者さん達を裏切ることになる

どちらを選んだらいいかなんて
そんなのは明白なんだろう

俺が三宅教授の提示した条件を呑む
多分、それしかない

そう思ってた

けれども



「三宅・・・お前は、アイツが・・・高梨が自分の身を削ってまで守り抜こうとしたこの病院をお前のその手で潰そうとするのか?高梨が、彼が遺して逝った彼の娘さんの目の前でお前はそんなことができるのか?」

三宅教授を諭すその声に


「尚史、お前は、高梨が大切にしてきたこの病院の患者さん達を自分が高梨に代わって守り抜きたい、そうなんだろう?だからお前は産科医師になったんだろう?高梨のような産科医師になるために・・・・・」

俺を諭すその声に


俺は自分が今の状況に流されそうになっていることにようやく気が付いた。