【Hiei's eye カルテ36:心揺さぶられる恩師とあの人の言葉】



「久しぶりだね、日詠くん。」

『・・・三宅教授・・・』

「久保くんにあんなことがあったけれどキミは大丈夫か?」


病院屋上でつかの間の休憩時間にたったひとりで久保の冥福を祈っていた俺のところに
名古屋医大の産婦人科教室教授の三宅教授が訪ねて来て下さった。


久保は名古屋医大の医局員で三宅教授の勧めでウチの病院でシニアレジデント研修をしていた医師。
おそらく、今、うちの病院まで出向いてきているのは、久保のことがあってのことだろう。
俺達にとって大切な仲間だった久保は、三宅教授にとっても大切な弟子。


『僕の配慮が足りなかったばかりに久保くんがこんなことになってしまって・・・申し訳ありません。』


俺は改めて自分の配慮の足りなさから招いたことを悔やんだ。

けれども、三宅教授は俺のせいにはせず、この病院の体制に問題があると言う。

確かに慢性的な人手不足はずっと続いている
でも、それはウチの病院に限ったことではない

問題は俺達、先輩医師が後輩医師をどう育てていくか
そこなんだと思う

それが上手く行えていなかった
だから今回のことを招いてしまったのだろう

それに久保は俺のことを羨ましがったりして明らかに俺に対して異変のサインを現していた
その後、彼は頑張っていたから上手く壁を乗り越えていた・・・そう思っていた

でも、俺がちゃんと気がついてやらなきゃいけなかった
彼が自ら命を絶つぐらい、追い込まれた状況に陥っていたことを


「日詠くん、キミが謝る必要はない。謝罪すべきなのはこの体制のまま長年それを変えようとしないキミの上司なんだから・・・まあ、今回のことで久保くんは残念な結果になってしまったが、これをきっかけにウチの医局員をこの病院から完全撤退させようかと検討しているんだ。」

三宅教授が言い出している名古屋医大の医局員の完全撤退も
ウチの上司のせいなんかじゃなくて
シニアレジデントというまだ一人前とは言えない久保をここまで追い込んだ


俺のせいだ