ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



その夜、伶菜は点滴を入れた後、落ち着いた様子で眠りについたようだった。
そんな彼女の状態を病棟ナースステーションで電子カルテに入力していた俺。


「相変わらず忙しそうね。」

『奥野さん・・・今日は日勤で終わっていたはずじゃ・・」

「市内の中学校から、保健講義の依頼が入ってて、それのスライドを作ってたのよ。」


名古屋医大時代からの先輩である女性産婦人科医師の奥野さん
知識だけでなく優れた技術も兼ね備えており、俺が尊敬している先輩医師のひとりでもある


「学校の先生に、性教育の話をどこまですればいいのか聴いてみたら、”今の中学生は早熟なので、現実を包み隠さずそのまま話してもらってもいいです”・・だって。」

『まあ、患者さんを診る現場にいても早熟なのは実感します。妊娠だけでなく、感染症を発症して受診する中高生も増えてますし。』

お互いに顔色ひとつ変えず性の話ができるのは、その話が産婦人科医師として問題視している事柄のひとつだからかもしれない。

「若者はスポーツや芸術でその衝動性を発散しなきゃ!!!! 泣くのはオンナなんだから。そうよね?日詠クン。」


言葉の上では同意を求められているけれど、視線は冷たい。
その言葉に疑問を感じさせてくれないぐらいのその視線。


『・・・・反省してます。大学生の頃の自分とか。』

「よくわかってるじゃん。まあ、ドクターになる前の、現実をまだ知らない頃だから仕方ないかもね・・・・ってまさか妊娠させたり、感染症を罹患させたりしたの?」

『それは、ないです。ちゃんとしてましたから。』

「避妊?」

『当たり前です。』


普通男女間ではあまりしないこんな会話。
でも、俺らは真面目に顔を突き合わせて話す。
産婦人科医師同士だからだけでなく、
今の俺は過去の自分の悪事を捻じ曲げられて理解されたくないから。


「ココロのケアは足りなかったようだけどね。」

『・・・その際はお世話になってたみたいで。』

「でも、不思議なことに、どの彼女も日詠クンは悪くないって言うんだよね~。どうやって別れてるのよ?」

『・・・俺はフラれるほうなんで、わからないです。』


でも、悪事はいつか暴かれ、そして裁かれる。
だからもう素直に謝るしかなかった。

医大生時代、奥野さんに別れた彼女のことをフォローしてもらったことが何度かあったみたいだし。
俺が公私共に世話になっている数少ない人のひとりもこの奥野さんだったりするから。