ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




「もう高梨だけの信念じゃない、お前の信念なんだろ?自分の信念を大切にし続けなさい。」


毅然とした口調でそう言った東京の日詠先生の横顔からは父親たる威厳のような空気が醸し出されていた。


「・・・はい。ご迷惑をおかけする形になり、本当に申し訳ありません。」

日詠先生はというとお腹の底から搾り出すような声でそう言いながら、深々と頭を下げた。


お父さん
もし私が日詠先生の立場だったら、申し訳ないじゃなく
ありがとう・・・そう言ってると思う

それって間違いかな?
血は繋がってない親子ではそういうワケにはいかないのかな?

私には日詠先生が、親に甘えるっていうことは許されないようなコトと思っているようにしか見えなくて
凄く、切ないよ

日詠先生が自分の信念を貫く方法を選んで嬉しいはずなのに
切なくて仕方がないの




ピピ、ピピ、ピピ・・・・


突然、日詠先生の白衣のポケットから聞こえてきた電子音。
それは決して鳴り止む気配はなかった。


「日詠クン、行きなさい!」

「三宅教授・・」

白衣のポケットに手を突っ込んだまま身動きが取れなくなっていた日詠先生。


「キミを、今すぐに必要としている患者さんが呼んでいるんだろ?」

さっきまで交換条件を振りかざしていたとは思えないぐらい、日詠先生のコトを思いやる空気を醸し出す三宅教授。
日詠先生はそんな三宅教授に丁寧にお辞儀をしながら白衣のポケットから院内PHSを取り出した。


「ハイ、日詠です。・・今から向かうから、手術室の空き状況を確認して!」


長期間使用によって消耗し、鈍く点滅している蛍光灯のようだった日詠先生が、産科病棟からと思われる緊急コールを耳にした瞬間、取り替えたばかりの新しい蛍光灯のように、力強くそのコールに応対した。


「三宅教授、申し訳ありません。僕、戻ります。自分が必要とされている場所に。」

電話を切った直後、口調だけでなく、目にも力強さが戻っていた日詠先生は三宅教授へそう声をかけた。
三宅教授は小さく溜息をついた後、おもむろに口を開いた。


「ああ、そのほうがキミらしい・・かもな。ウチの医局員の撤退は白紙に戻すよ。そのかわり、しっかり頑張りなさい。自分の信念を守り抜くために・・キミを父親らしく守ろうとした日詠のために、そして・・・・キミが憧れ続けた高梨のためにもね。」


三宅教授
全く話が通じない人じゃないんだ